こんにちは。聖一朗(@sei01row)です。
今回は『ある少女にまつわる殺人の告白』という小説の感想文を書いて行きます。
ちなみになるべくネタバレしないように心がけています。
ジャンルはミステリーになると思います。(タイトルから想像出来そうですね)
ただこの作品は、これまでボクが読んできたミステリー小説の中でも、ちょっと違った一面があり、“読み物”として考えさせられる内容でした。
〇ベタなミステリー小説が好きな方
〇子育てについて考える事が多い方
〇幼児・児童の福祉に携わっている方
ミステリーでありながら、現在日本が抱える幼児・児童福祉の問題点についてにも言及してる作品です。
あっという間に読んでしまったというほどではないですが、時間を忘れて没頭できましたのでオススメの作品です。
目次
はじめに
この作品は幼児・児童が辛い目にあってしまうという内容が含まれています。
巻末の解説にも『読み進めるのが辛い』という声があったという事が記載されていました。
確かにミステリー小説には、その手の内容を取り上げるものも少なくありません。
でも知ってて手に取るのと、知らずに手にするのでは全く違いますよね?
小説は好きだけど、辛い内容は苦手という方は読んじゃダメな本です。
その辺りを踏まえた上で、判断していただくようにお願いします。
主な登場人物
隈部
長崎県南児童相談所の所長。精神科医という肩書も持っている。物語のおおすじは、この隈部へのインタビューが軸となってます。
長峰亜紀
この小説のタイトルになっている『ある少女』。10年前に起きた事件の中心人物です。
長峰君枝
亜紀の母親。亜紀の実父とは離婚し、内縁関係にある杉本と生活をしていました。
杉本伸一
君枝と内縁関係になっている男。
相良
隈部の大学時代の同期。伯父の経営する医療法人で小児科医をしています。
入江くん
亜紀の同級生。何かと亜紀を助ける存在。
この小説は隈部を中心としたインタビュー形式で構成されている為、他にも亜紀の友人や君枝の知人など様々な人物が登場します。
ザックリあらすじ
舞台は長崎県で繰り広げられます。
長崎県南児童相談所の所長である隈部のもとに、ある男が10年前に起きた忌まわしい事件についてを聞きにやってくるところから始まります。
10年前に一時保護されていた『長峰亜紀』にまつわる事件。
ある男は、この事件の関係者であった人物やその家族・知人から数多くの証言をとり、少しずつ当時の状況が明らかになっていきます。
さらにはその裏に隠された事件に真実も浮かび上がっていき・・・。
関係者に話を聞いて回る男は一体何者なのか?
この男の正体が明らかになった時、恐ろしいラストが待ち受けています。
そして感想
小説というと、大体が一人称(主役目線)か三人称(神の目線)で書かれているんですが、こちらの作品は、ある男がインタビューをして回る中で、証言者の目線で書かれています。
その為ミステリーのオーソドックスな手法である、複線をまき散らして回収していくというスタイルではなく、パズルのピースをひとつひとつ集めていく事により、徐々に全体像が見えてくるという構成。
読み始めは証言者の長崎弁に慣れず、ちょっと読みづらく感じてしまいました。
証言者として登場する人物の語りは、それぞれの人となりや事件に関係した人との関わり合いから、少しずつヒントが抽出されていきます。
話を聞きに回っている人物は、10年前に起こった事件についてを聞いて回っているので警察関係者というわけでは無さそう。
じゃあ古い事件の真相を掘り起こして記事にしようとするジャーナリスト?
でも「こんな人までよく話が聞けたなぁ」という人物にまで証言を取っています。
途中で事件の概要が見えてくるんですが、その事件も10年も前のもの。
それに日本全国を震撼させたような大きな事件ではなく、ちょっと間違えば近所でも起きてしまいそうな不幸な事件。
そんな事をなぜこの男は聞きまわっているのか?
それが分かるのは、本当にラストのラスト。
事件の全貌が明らかになった、さらにその後に判明します。
きっとこれを読んだ誰もが「そういう事だったのか!」と思うでしょう。
そして証言というパズルが全部そろい、事件の全貌という絵が完成した後・・・。
その裏側に描かれていた絵にゾゾゾっと背筋が凍ります。
物語は3部構成で、それぞれに『煉獄』『暗闘』『連鎖』という題名があるんですが、それも気にしながら読んで頂きたいです。
ありふれたミステリーだと断じてしまう方もいるかもしれませんが、ありふれたミステリーだからこそ、その怖さが楽しめる作品でした。
心の傷は誰にでもあるもの
この小説のテーマは『子どもが辛い目に遭い、心に傷を負ってしまう』というものです。
物語の中心人物として登場する亜紀に自分自身を重ねて、疑似体験をするという事はなかなか難しいです。
それは例えば殺人事件が起こした犯人の気持ちを、殺人をしたことが無い読み手が理解する事が出来ないのと同じなのかもしれません。
でも心の傷というものは、大小にかかわらず誰にでもあるもので、『プールで溺れた経験があるから、水が怖い』とか、もっと軽いものだと『小さい頃に食べて、まずいと感じたものが大人になっても苦手』というもの心の傷のひとつです。
本当に小さい頃だと、そんな経験すら忘れてしまっているかもしれません。
あなたが苦手だったり、嫌いだったりするようになったきっかけは覚えていますか?
つまり多感な時期の経験は、大人になった今でも自分の嗜好や気持ちの変化に大きく影響しているという事。
他の人からすれば、どう考えてもおかしいと思われる『何か』にも、あなたは気付いていないかもしれません。
世の中にはそんな人達が大勢いるんだという認識をすれば、亜紀の心情の変化が理解できます。
トラウマやPDSD、鬱といった症状として出ていない心の傷を持った人は、案外身近にいるのかもしれない。
それはあなたのパートナーかも・・・そういう気持ちで読んでみてください。
この作品について
この作品は2011年『このミステリーはすごい!』大賞優秀賞受賞作です。
作者の佐藤青南さんは、長崎県出身で元ミュージシャンという異色の肩書をもった方です。
ボクがこの作品を知ったのは『たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に』という作品を読んだ事でした。
どちらの作品も内容を想像出来ないまま、手にして読み始めたものでしたが『たぶん、出会わなければ~』を読んだ後に『ある少女にまつわる~』を読みました。
その為『ある少女にまつわる~』も恋愛ミステリーかな?と思っていましたが、全く違う内容で、読了後の衝撃はそのせいもあったかもしれません。
実はこの『ある少女にまつわる~』にはもうひとつの表紙が存在しています。
ボクが手にしたのはこっちでした。
何の気なしに手に取ったんですが、よく見たらけっこうスゴい表紙でしたね・・・。
読み終わった後口の中に少々苦みが広がるような、そんな作品が好きな方には是非オススメしたいです!